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研究室の概要と沿革

この研究室について

保健社会行動学分野は、2012年に新たに始まった分野です。旧・老年社会科学分野と旧・健康教育・社会学分野の流れを汲みつつ、行動科学・心理学・社会学・経済学・疫学などの社会科学の理論や方法論を組み合わせて、「社会」構造や関係が健康関連行動や健康生成に影響するメカニズムについて明らかにすることが研究課題の中心です。また、その結果に基づいて主に社会格差による健康格差の解消に焦点をあて、福祉国家の実現に資するエビデンスベースの発信をこころがけています。


■沿革と概要

当分野は、故宮坂忠夫名誉教授を初代とする保健社会学講座を前身とし、わが国医学部における医療社会学・行動科学研究部門として最も早期に創設されたもののひとつである。第2代教授である故園田恭一教授は、社会学者としての独自の視点からこれを発展させ、わが国における保健社会学の確立に多大な貢献を果たした。さらに第3代教授である川田智恵子教授は、エンパワーメント・学習支援などの教育学的概念を健康教育の領域に導入することで、健康教育研究に新たな展開をもたらした。

1997年からは、第4代教授である甲斐一郎教授のもと、倫理学などのより広い社会科学を統合した老年社会科学分野の創設によりわが国におけるgerontology発展の基礎の一角を形成するとともに、山崎喜比古准教授を中心として慢性疾患の病体験やスティグマ形成の問題、健康生成論、健康格差論、医師患者コミュニケーションなどの社会学的研究が精力的に展開された。

2007年公共健康医学専攻専門職大学院の創立に伴い、本分野も改組され、さらに2012年より、ライフコースアプローチを取り入れた、社会的健康決定要因の健康影響を射程に入れるべく、老年社会科学分野を保健社会行動学分野に改名し、今日に至る。当分野は社会的文脈の中で形作られる健康、行動、認識のありようについて、社会学・行動科学・経済学・心理学などの人文科学と健康科学の融合を通じて研究することを一環としてミッションとし、健康の社会的格差の解消と、医療疾病モデルにとらわれない、健康を主体的に育む個人や社会の構築に向けた科学的知見の蓄積と発信を志向している。


■研究テーマ

本分野では、社会経済的格差による健康格差の実態把握やそのメカニズムの解明など、社会疫学的研究を、最重要な研究テーマとして現 在位置づけている。これまでも国民生活基礎調査 などの 2 次データを用いた解析を実施してきた。また経済産業研究所や本学経済学部との共同研究 として、高齢者を対象とした大規模パネル調査(「くらしと健康」調査 Japanese Study of Ageing and Retirement; J-STAR)を実施し、所得・資本・学歴・就労などの社会経済的要因と、医療・介護サービスへのアクセス、生活習慣、社会的支援など社会関係が健康に及ぼす影響について包括的かつ多面的な検討を進めている。

また 2010~2013年に渡り 25~50 歳成年とその配偶者・子どもを対象とした新たな社会調査(「まちと家族の健康」調査 Japanese study of Stratification, Health, Income, and Neighborhood; J-SHINE)を、医学・経済学・社 会学・社会心理学・医療政策学などの研究グルー プと共同で実施した。収集データについて研究目 的による公開利用を進め社会経済的格差の形成が健康格差につながるメカニズムの同定と、それを 回避するための社会経済的政策の在り方について実証的研究の基盤を提供している。

2015-16年度では、子どもの第3 回追跡調査を実施し、参加市区で実施された学校給食や外食産業を巻き込んだ 「野菜摂取向上キャンペーン」の政策評価を実施し、その効果を確認、学会などで発表した。